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UT-VPN の概要と活用方法
第 2 章 - UT-VPN 公開までの経緯

utvpn_Page_29.jpg (483965 バイト)ここでは、UT-VPN オープンソース・プロジェクトの公開までの過去の経緯についてご説明します。
UT-VPN の基となった SoftEther 1.0 に関する政府による停止要請騒動について説明し、また、SoftEther 1.0 が過去に社会に対して与えた影響や製品化の経緯について説明します。次に、ソフトイーサ株式会社が PacketiX VPN 2.0 を製品として開発したことについて説明します。最後に、UT-VPN プロジェクトについて説明します。

 

経緯 1 - SoftEther 1.0 - 政府による停止要請騒動

UT-VPN の基になったソフトイーサ株式会社の「SoftEther 1.0」は、実は、日本国政府によって開発が支援されたものの、日本国政府の要請によって配布 (ダウンロード) が停止する騒動がありました。

 

日本国政府が開発支援した SoftEther 1.0

utvpn_Page_31.jpg (638604 バイト)SoftEther 1.0 は 2003 年 4 月に筑波大学第三学群情報学類に入学した登 大遊が、個人で応募した補助金プロジェクトの財源を基に開発されました。

SoftEther 1.0 は、経済産業省の予算で支出される、IPA (独立行政法人 情報処理推進機構) の「未踏ソフトウェア創造事業 (未踏ユース部門)」に登 大遊が採択を受け、300 万円の予算を割り当てられ、1 年間をかけて開発されました。utvpn_Page_32.jpg (681761 バイト)

IPA (独立行政法人 情報処理推進機構) とは、経済産業省の所轄する情報処理を推進するための組織です。

未踏ソフトウェア創造事業とは、長期的に国にとって利益となる可能性があるソフトウェアを開発しようとする学生や個人プログラマに対し、人件費や原材料費、設備費等を補助する補助金制度です。

登 大遊は筑波大学の学生として応募し、SoftEther 1.0 を自宅および筑波大学の研究室等で開発しました。

 

utvpn_Page_33.jpg (703943 バイト)2003 年 12 月 17 日 - SoftEther.com での公開

登 大遊は SoftEther 1.0 のベータ 1 を 2003 年 12 月 17 日に開発し、SoftEther.com というドメインを取得して Web サイトで配布を開始しました。

SoftEther 1.0 は個人でも使いやすい VPN ソフトウェアとして話題を集め、いくつかのニュースサイトにニュース記事や解説記事が掲載されました。

 

2003 年 12 月 20 日 前後

utvpn_Page_34.jpg (692969 バイト)しかし、SoftEther 1.0 の初公開から 3 日くらい経ったある日のこと、某都道府県の某官庁において、ある情報システム関係の職員が、住民基本台帳ネットワークシステム (住基ネット) の内側に SoftEther 1.0 の仮想 HUB (サーバー) を設置し、外部 (自宅など) に SoftEther 1.0 の仮想 LAN カード (クライアント) を設置して、外部から、住基ネットの画面を操作するということができるということに気付きました。

このことについて、正確な証憑はありませんが、SoftEther 1.0 の上で VNC という Windows で動作するリモートコントロール用のフリーウェアを用いて実験したという情報があります。

そして、その結果、当該職員は、住基システムに外からアクセスできるようになったことにとても驚き、この SoftEther 1.0 というソフトウェアが政府 (経済産業省) によって開発支援されていることについてさらに驚愕し、経済産業省に対して、このような危険なソフトウェアを無償で配布することを止めるようにクレームをしました。

しかしながら、上記の事実を見て、SoftEther 1.0 が危険なソフトウェアであるということにはなりません。内部に VPN サーバーを設置し、外部の VPN クライアントから VPN サーバーに接続できるようにするということは、SoftEther 1.0 の根本的に主要な機能です。もしそれができなければ、SoftEther 1.0 は VPN ソフトウェアとしては失格で、意味がありません。それについてクレームを付けるということは、つまり、未踏ソフトウェア創造事業において採択された際の仕様書通りのものを開発者が開発したことについて異議を唱える行為であるということがいえます。

 

2003 年 12 月 24 日 - 政府 (経済産業省) の要請により SoftEther 1.0 の配布を停止

utvpn_Page_35.jpg (636024 バイト)某自治体からのクレームが経済産業省に届いたので、経済産業省は IPA に通知し、IPA が SoftEther 1.0 の開発者である登 大遊に対して、SoftEther 1.0 の無償ダウンロード配布を停止するように要請しました。

そもそも、登 大遊と IPA との間の契約書によれば、SoftEther 1.0 を開発すること、および開発した SoftEther 1.0 はフリーウェアとしてインターネット上で無償で配布することが義務付けられています。

utvpn_Page_36.jpg (683441 バイト)登 大遊としては、SoftEther 1.0 を、IPA との間の契約に従い Web サイトで広くダウンロード配布したものでありますが、そのダウンロード配布を経済産業省からの指示により停止するということは極めて重大な出来事でした。

政府からの要請により、個人が開発したフリーウェアの配布が停止したことは、日本においては滅多にない出来事であったため、多くのニュースサイトや新聞において話題になりました。この際の話題性は、配布を開始した際の話題性よりも高いものがありました。

 

2003 年 12 月 25 日 - 配布再開

utvpn_Page_37.jpg (702586 バイト)翌日、登 大遊と IPA およびその上位の経済産業省が協議した結果、ダウンロード Web ページに「このソフトは危険です」という旨の表記をすることで、ダウンロードを再開しても良いということになりました。

その結果、ダウンロードは再開され、それから約 2 年間程度で SoftEther 1.0 のダウンロード総数は 1,786,400 回以上になりました。しかし、これは SoftEther 1.0 の Beta 1, 2, 3, 完成版のすべてのダウンロード回数と、1 人のユーザーが複数のコンピュータのために複数回ダウンロードした回数を合計したものですので、実質的には、10 万人 ~ 20 万人程度の個人ユーザーおよび事業所ユーザーが SoftEther 1.0 をダウンロードして使ってみたということが推測できます。

 

ネットワーク管理者による反対意見

utvpn_Page_38.jpg (538592 バイト)SoftEther 1.0 のダウンロードが再開されたことについて、今度はインターネット上の掲示板などの匿名かつ無責任で書き込むことができる場所において、自称ネットワーク管理者が、このようなソフトウェアは配布されるべきできない等の反対意見を多数投稿しました。

ネットワーク管理者には、最新技術の動向をよく注視し、有用な技術があれば、それをネットワークセキュリティを維持しつつ導入することで利用者の利便性を向上させることができるような高い能力を持った者と、それ以外の者の 2 種類がいますが、このような投稿は、専ら、後者のような者によって投稿されたのではないかと考えられます。

 

SoftEther 1.0 の通信を検出・遮断するビジネスも登場

utvpn_Page_39.jpg (625605 バイト)SoftEther 1.0 は TCP/IP のポート 443 (HTTPS) を使って VPN 通信ができるため、検出が困難でした。Beta 1、Beta 2 では HTTPS のポート番号を使って独自のプロトコルを流していましたので、その内容を傍受すれば検出することは容易でした。

しかし、Beta 3 では HTTPS のポート番号を使うだけではなく、通信内容そのものも HTTPS と同様の SSL というプロトコルを用いることになりました。そうすると、ネットワーク管理者は、単にパケットの内容を snort 等で補足するだけで SoftEther 1.0 の通信を検出することができなくなりました。

ここにビジネスチャンスを見つけたいくつかの企業がありました。SoftEther 1.0 の通信を、通信内容ではなく、通信の性質 (トラフィック・パターン) を見ることで検出する非常に高い技術を持ったエンジニアが開発した SoftEther 1.0 の検出・遮断製品が複数登場しました。技術的には、トラフィック・パターンを見てプロトコルを推測することは極めて高度で難易度が高いことですが、SoftEther 1.0 はそのような技術の発展にも貢献しました。

 

三菱マテリアル株式会社による SoftEther 1.0 の製品化

utvpn_Page_40.jpg (569905 バイト)SoftEther 1.0 を製品化して販売する企業もいくつかありました。2004 年 3 月 ~ 4 月には、三菱マテリアル、大日本印刷、伊藤忠テクノサイエンスなどが、SoftEther 1.0 をベースとしたソフトウェア製品を販売することを発表しました。

 

 

 

経緯 2 - PacketiX VPN - ソフトイーサ社による製品版

PacketiX VPN 2.0 / 3.0 は、ソフトイーサ株式会社によって SoftEther 1.0 を基礎として開発された VPN ソフトウェアで、UT-VPN の基となっています。

 

PacketiX VPN 製品版

utvpn_Page_42.jpg (681594 バイト)SoftEther 1.0 を開発した登 大遊および筑波大学の学生数名は、2004 年 4 月に、ソフトイーサ株式会社を起業しました。

そもそもの起業の動機は、意外なところにあります。開発者である登 大遊は当時 19 歳でしたが、三菱マテリアルとの間でライセンス契約やその他いくつかの覚書の文書を交換しようとするとき、民法の規定により、未成年者はその契約行為を行う際に親権者の同意を要しました。そのため、何か契約書や覚書を交換する度に、速達郵便によって親権者に送付して捺印をしており、その郵送にかかる時間的コストがもったいないものとなっていました。登 大遊がソフトイーサ株式会社を起業することで、当該会社と三菱マテリアルとの間で契約をする際は未成年者であることによる手間のかかるコストは生じなくなることがわかりました。そのため、2004 年 4 月 1 日にソフトイーサ株式会社が設立登記されました。

ソフトイーサ株式会社は PacketiX VPN 2.0 を 2005 年 12 月に、その次期バージョンである PacketiX VPN 3.0 を 2010 年 3 月に発売しました。

 

utvpn_Page_43.jpg (379327 バイト)導入企業数 推移

PacketiX VPN は 2005 年 12 月に発売してから現在まで、ほぼ線形に導入数が増加しています。

2009 年 10 月までに約 3,500 社に導入されました。

 

 

 

utvpn_Page_44.jpg (700540 バイト)PacketiX VPN 無料版 (Free Edition)

PacketiX VPN は当初、無料版 (Free Edition) の配布を行っていました。これはフリーウェアであり、個人ユーザーが無償で利用できるものでした。

しかし、2006 年 4 月ごろ、商用ソフト販売を最優先するためにはフリーウェア版の配布を停止すべきという、当時のソフトイーサ社の社内意見の多数決の結果から、Free Edition の配布を停止しなければならなくなりました。開発者の登 大遊としては、Free Edition の配布停止には大きく反対でしたが、2006 年 4 月から現在まで、PacketiX VPN の無償版は存在しなくなりました。

 

経緯 3 - UT-VPN - PacketiX VPN がオープンソース化

ソフトイーサ株式会社と筑波大学は共同研究契約を締結し、PacketiX VPN を基にした研究を行い、その成果を外部公開することに合意しました。

 

utvpn_Page_46.jpg (648249 バイト)SoftEther 社と筑波大学との共同研究

筑波大学は茨城県つくば市にある国立大学法人であり、ソフトイーサ株式会社の発生源であります。

ソフトイーサ株式会社は筑波大学の学生が創業し、主要なメンバーとなっています。ソフトイーサ株式会社は 2005 年度から 2009 年度までは外部の本社のほかに事務所を筑波大学の内部に設置し事業を行っていました。また、2004 年から現在まで、いくつかの VPN に関する共同研究契約を締結しています。

 

utvpn_Page_47.jpg (673944 バイト)UT-VPN プロジェクトの目的

UT-VPN は University of Tsukuba VPN の略であり、過去に実施した VPN に関する共同研究の成果を社会に対して広く無償で公開し、さらに発展させることを目的としています。その目的を実現するために、まさにこの Web ページが制作され公開されています。

UT-VPN ソフトウェアは GPL ライセンスによってオープンソース化されます。これにより、誰でも開発に参加し、自由に学習し、改良し、再配布することができます。そうすると、社会全体における情報通信に関する科学技術の発展の加速に貢献することができます。これが、UT-VPN プロジェクトの基本理念です。

 

utvpn_Page_48.jpg (664488 バイト)参考書籍 「The World Is Flat」

UT-VPN の公開は、単に科学技術の発展の加速につながるだけではなく、科学技術の研究に関係していない人々の間の生活をより良くすることにつながると信じることができます。

VPN 技術や VoIP 技術、光ファイバー通信技術などの最新の ICT がどのように社会を幸福にするのかということについては、近年、多くの書籍などが出版されていますが、中でも、「The World Is Flat」(邦題: フラット化する世界) という本は良く分析されている名著です。各国でベストセラー等になっています。VPN 技術等が世界に与える影響について、是非「The World Is Flat」(邦題: フラット化する世界) などの書籍をご参照ください。

このように、VPN 技術は長期的にみて世界の発展の加速に貢献するということができるので、それに寄与するためにも、UT-VPN をオープンソース化することとしました。

 

 

 

UT-VPN は、筑波大学とソフトイーサ社との共同研究の一環として公開されている学術研究目的のオープンソース・プロジェクトです。
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